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熊本地方裁判所玉名支部 昭和43年(ワ)101号 判決 1969年10月15日

原告

中山博文

被告

渡辺勝美

主文

被告は原告に対し、金四五四万五、八六二円およびこれに対する昭和四三年一一月一〇日から支払ずみに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

原告その余の請求を棄却する。

訴訟費用はこれを一〇分し、その二を原告の、その余を被告の各負担とする。

この判決は原告勝訴部分に限り仮りに執行することができる。

被告において金一五〇万円の担保を供するときは右仮執行を免れることができる。

事実

原告訴訟代理人は「被告は原告に対し、金五二〇万円およびこれに対する本件訴状送達の翌日(昭和四三年一一月一〇日)から完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は被告の負担とする。」旨の判決ならびに仮執行の宣言を求め、その請求原因として

一、訴外亡中山光弘は、昭和四三年六月一六日午後零時三〇分頃、内縁の妻川崎笑子と熊本県玉名郡玉東町大字稲佐二七〇の一番地先国道二〇八号線(有効幅員八・二米)外側線外左端を横に並んで同県玉名市方面から熊本市方面に向け歩行中後方より進行して来た被告運転の軽四輪貨物自動車(六熊い八二九八号)の左前部に衝突され同自動車前部に掬い上げられたまま約三六米進行したうえ、同路上にふり落され同日午後零時五五分頃同町大字木葉一、一二七番地医師小山勇方において右衝突に基づく頭蓋底骨折に因り死亡するに至つた。

二、いうまでもなく、自動車を運転する者は常に前方を注視しかつ道路交通の状況に応じ適宜その速度を加減する等危害の発生を未然に防止するため周到な注意をなすべき義務があるに拘らず、被告はかかる注意義務を怠り左下を向き左手で「カーラジオ」の音響調整をして前方を注視せず右手のみでハンドルの操作をなした重大な過失に因り右衝突の事故を惹起したものであるから、被告は右中山光弘の衝突事故死による損害を賠償すべき義務があるものである。

三、しかして、右中山は、該事故死に因り次のような損害を被むつた。

(一)  得べかりし利益の喪失による損害

(イ)  同人の稼働(勤続)期間

同人は、本件事故当時玉名市役所市民課に勤務し、大正一三年一一月九日生れの満四二才であつたから、その平均余命は二九・二五年である。

ところで、同市の職員勧奨退職は毎年三月末日現在満五八才の者を対象としてみぎ勧奨がなされ退職の時期を同年八月末日としているので、右中山については昭和五七年八月末日が同勧奨退職時で、それまでが同人の同市役所における稼働(勤続)期間となることが明らかである。

(ロ)  同人の得べかりし給料・賞与・超過勤務手当並びに退職手当金。

本件事故時における同市一般職職員の給与に関する条例ならびに同市職員の退職手当に関する条例に基づき所定の定期昇給を考慮して右額を算出すると

(A) 給料

昭和四三年度 四五万五、二五六円

〃四四〃 六三万九、三六〇〃

〃四五〃 六六万七、四四〇〃

〃四六〃 六九万九、二四〇〃

〃四七〃 七三万〇、九二〇〃

〃四八〃 七六万二、六〇〇〃

〃四九〃 七九万〇、六八〇〃

〃五〇〃 八一万〇、三六〇〃

〃五一〃 八三万二、三二〇〃

〃五二〃 八五万〇、五六〇〃

〃五三〃 八六万九、一六〇〃

〃五四〃 九〇万一、三二〇〃

〃五五〃 九三万三、二四〇〃

〃五六〃 九六万二、七六〇〃

〃五七〃 六六万一、四四〇〃

計 一、一五六万六、六五六〃

(B) 賞与

昭和四三年度 一五万一、七五二円

〃四四〃 二一万三、一二〇〃

〃四五〃 二二万二、四八〇〃

〃四六〃 二三万三、〇八〇〃

〃四七〃 二四万三、六四〇〃

〃四八〃 二五万四、二〇〇〃

〃四九〃 二六万三、五六〇〃

〃五〇〃 二七万〇、一七〇〃

〃五一〃 二七万七、四四〇〃

〃五二〃 二八万三、五二〇〃

〃五三〃 二八万九、七二〇〃

〃五四〃 三〇万〇、四四〇〃

〃五五〃 三一万一、〇八〇〃

〃五六〃 三二万〇、九二〇〃

〃五七〃 二四万八、〇四〇〃

計 三八八万三、一一二〃

(C) 超過勤務手当(給料額の百分の六)

自昭和四三年度 至同五七年度

計 六八万七、九九九円

(D) 退職手当

総額 三八〇万〇、三四〇円

以上合計 一、九九四万四、一〇七円

となるところ、既に死亡時迄の退職金として金八三万〇、三〇四円が支給され、また右給料中から差引かるべき共済組合納入金一〇二万八、九七六円が混入しているので、これらを控除すると、訴外中山光弘の得べかりし実収は総額一、八〇八万四、八二七円となる。

(ハ)  生活費

同人の生活費はその収入の概ね四割と考えられるので、右(ロ)項の実収総額に右割合を乗ずると、生活費の総額は七二三万三、九三一円となる。

(ニ)  純益

したがつて、同人の得べかりし純益は(ロ)項の総額から(ハ)項の生活費総額を控除した一、〇八五万〇、八九六円であり、ホフマン式計算により法定利率年五分の割合による中間利息を控除して現価を求めると、六一九万五、八六二円となり、これが同人においてその死亡時被告に対し一時に請求し得べき逸失利益である。

(二)  精神的損害(慰謝料)

右中山光弘は、一人息子である原告の成長を楽しみにしていたものであり、また前記内縁の妻川崎笑子と結婚し心身共に張り切つていた矢先本件事故に遭い死亡したものでその無念さは想像するに余りあるものがあり、この精神的苦痛に対する慰謝料としては金三〇〇万円が相当である。

四、ところで、原告は、右中山光弘の長男で、唯一の直系卑属であり、右光弘の死亡によつて同人が被告に対し有した第三項(一)および(二)掲記の損害賠償請求権を相続した(もし仮りに被害者が死亡した場合被害者自身が自己の死亡に基づく慰謝料請求権を取得するということはあり得ず、これを相続人において相続する由もないとの見解を是とするときは、原告は民法第七一一条による固有の慰謝料請求権を有するから同条に基づき前記同額の慰謝料の支払を求めるものである。)ほか、右光弘の葬儀を営みこれが費用として金一五万円を支出しているので、被告に対し右費用相当の損害に対する賠償請求権も有するものである。

五、しかして、原告は昭和四三年一〇月一五日頃本件について自賠責保険金三〇〇万円を受領したので、結局被告に対する請求額は第三項(一)・(二)の金額に第四項後段の葬儀費用一五万円を加えた合計金九三四万五、八六二円から右受領済み保険金三〇〇万円を控除した金六三四万五、八六二円となるところ、原告はそのうち金五二〇万円およびこれに対する本件訴状の被告に送達された日の翌日である昭和四三年一一月一〇日から民事法定利率年五分の割合による遅延損害金についてのみ、被告に対し、これが支払を求めるものである。

〔証拠関係略〕

被告は「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」旨の判決を求め、答弁として

一、原告主張の請求原因第一項の事実は認める。

二、同請求原因第二項の事実は、被告に賠償義務があるとの点を除き認める。

三、同請求原因第三乃至第五項の事実は、いずれも不知かまたは争う。

〔証拠関係略〕

当裁判所は職権で被告本人を尋問した。

理由

一、訴外亡中山光弘が、昭和四三年六月一六日午後零時三〇分頃、内縁の妻川崎笑子と熊本県玉名郡玉東町大字稲佐二七〇の一番地先国道二〇八号線(有効幅員八・二米)外側線外左端を横に並んで同県玉名市方面から熊本市方面に向け歩行中後方より進行して来た被告運転の軽四輪貨物自動車(六熊い八二九八号)の左前部に衝突され同自動車前部に掬い上げられたまま約三六米進行したうえ、同路上にふり落されて同日午後零時五五分頃同町大字木葉一、一二七番地医師小山勇方において右衝突に基づく頭蓋底骨折に因り死亡するに至つたことならびに右衝突時被告は左下方を向き左手で「カーラジオ」の音響調整をなし右手のみでハンドルの操作をなしておつたこと等の事実については、当事者間に争いがない。

二、しかして、被告本人尋問の結果によると、該自動車は被告の所有に属し、かつ同人が自己のため運行の用に供しておつたものであることが明認されるので、同被告としては自動車損害賠償保障法第三条但書所定の免責事由が存しない限り、本件事故により前記訴外中山光弘に生じた人身損害を賠償すべき義務を免がれ得ないものであるところ、右免責事由について主張立証するところがないのみならず、前記当事者間に争いのない事実によると右事故はむしろ被告の運転上の過失に基因するものと認められ、右但書所定の免責事由は到底これを肯認し難いものといわなければならない。

そうすると、被告が該自動車の運行供用者として、自動車損害賠償保障法第三条本文に基づき、前記中山の生命を害したことによつて生じた損害を賠償すべき義務の存することは明らかであるといわなければならない。

三、よつて右損害額について按ずるに、〔証拠略〕を綜合すると、前記訴外中山光弘の事故死に因り生じた損害は次のとおりであることが認められる。

すなわち

(甲)  財産上の消極的損害

1  得べかりし給料等による収入についての損害

(一) 右中山光弘の余命年数

同人は、大正一三年一一月九日出生し、右死亡当時満四二才であつたところ、同年令男子の平均余命年数は、当裁判所に顕著な厚生省統計調査部作成第一一回生命表によれば二九・二五年であるから、右中山の余命年数もまたみぎ二九・二五年と判断するのが相当である。

(二) 同人の得べかりし給料等による収入

(1) 同人の稼働可能(勤続)期間

同人は右事故時玉名市役所市民課に勤務しておつたものであるが、同市には定年制がないため、概ね職員が満五八才に達した時点において退職が勧奨され、当該月末日で右退職が実施されておるので、右中山についても、同人が満五八才に達する昭和五七年一一月九日(この時点まで同人が生存しておることは、前記余命年数から明らかである。)の属する同月末日がその退職年月日となるものである。

(2) 同人の粗収入

(イ) 給料

右中山は本件事故による死亡時、給料として月額五万〇、五八四円を得ておつたものであるところ、同市における現行給与規定によれば、特別の事情がなく普通に勤務しておれば別表第一の給料月額欄掲記のごとく逐年定時(四月一日)昇給するので、各年(会計年度によるので一年は四月一日から翌年三月末日迄の一二ケ月である。)間給料額は、当該給料欄掲記の金額となる。

尤も第一年目(昭和四三年度)は、死亡翌月からの残月数九ケ月分(原告は訴外中山光弘死亡の翌日である同年六月一七日から同月三〇日迄の分については計算の繁雑を避けるため請求しない旨主張しているので残月数は同年七月から同四四年三月までの九ケ月となる。)について、また最終年は退職月迄の八ケ月分(会計年度初の四月から一一月迄の分)についての額しか、それぞれ当該年額となるものでないことは勿論である。ところで、同市吏員は全員共済組合に加入しており、その掛金の割合は昭和四三会計年度すなわち同四四年三月迄は給料の一、〇〇〇分の八八・五、同四四会計年度以降すなわち同年四月以降は同一、〇〇〇分の八九となつており、右掛金額は給料から天引されておつたので、右中山についても同表共済掛金欄記載の金額が給料から控除されるべきものであることが明らかである。

したがつて同人の差引給料手取額が同表当該欄掲記の数額となるものであることもその計数上明らかである。

(ロ) 超過勤務手当

同市では職員の超過勤務手当として給料年額の六パーセントが予算化されており、全職員が概ね年間右程度の超過勤務をしておるので、右中山の場合も前記勤続全期間にわたつて右割合による所得があるものとみることができ、該金額が同表超勤手当欄掲記の金額となることも、その計数上明らかである。

(ハ) 賞与

賞与は年間基本給の四・四ケ月分となつており、これを三月〇・五ケ月、六月一・四ケ月、一二月二・五ケ月分の各割合で支給されておるので、右中山についても昭和四四年から同五六年までの一三ケ年間は右割合による金額、第一年目の同四三年度は三ケ月分(同年一二月の二・五ケ月分と同四四年三月の〇・五ケ月分の合計額)、最終年の昭和五七年度は三・九ケ月分(同年六月の一・四ケ月分と同年一二月の二・五ケ月分の合計額)あて右賞与の支給があることになり、その各年間支給額が同表賞与欄掲記の金額となることは、その計数上明らかである。

そうすると、右中山の給料・賞与等恒常的収入の合計額は、右(イ)乃至(ハ)の合計金額である一、五一一万四、八三〇円となるものであるといわなければならない。

(三) 給料等の収入から控除を要する費目(生活費)

右中山が右勤続期間存命しておつたとすれば、当然同人はその生活を維持するため相当額の出費を免がれなかつた筈であるところ、右中山は本件事故当時その食費、光熱費、家賃、小遺、別居している先妻との間の子(原告)への仕送り等で、月間合計約二万六、〇〇〇円の生活費を要しておつたことが認められ、右金額は当時の給料額の約五一パーセントに当るので、爾後給料基本額の逐次上昇に伴う生活程度の向上によつて右生活費の金額も概ね右比率で増加するものとみるのが相当であるところ、各年度の給料額に見合う生活費がそれぞれ同表生活費欄掲記の数額となることは、その計数上明らかである。

(四) 純利益

そうすると、右中山の各年間純益は、前記年間収入総額(給料等合計額)から右年間生活費を差引いた金額となるものといわなければならない。

(五) 中間利息の控除

ところで、右純益は、本来同人が将来逐次取得すべきものを右死亡時に一時に請求するのであるから、その間の中間利息を控除するのが相当であり、これをホフマン式計算法(別表第二明細参照)により計算すれば、右死亡時に一時に請求し得べき金額は、金六八二万一、八〇五円となる。

2  得べかりし退職手当金についての損害

訴外中山光弘の前記退職時点における退職手当金は、同市の当該規定によれば、退職時の給料を基準として、勤続期間中最初の一〇年間は一年につき一〇〇分の一五〇、次の一〇年間は同一〇〇分の一六〇、次の八年間は同一〇〇分の一八〇の割合で支給されることになつており、みぎ計算によると、同人の退職手当金総額は三八〇万〇、三四〇円となるところこれも右死亡時に請求するのであるから、前同様中間利息を控除(別表第三明細表参照)すると、別表第一当該欄掲記の二二〇万八、四七三円となる。

しかるところ、同人は右死亡時迄の分の退職手当金として既に八三万〇、三〇四円の支給を受けているから、これを同欄掲記の金額から控除することを要し、その結果右死亡時に一時に請求し得べき退職手当金額は、金一三七万八、一六九円となる。

そうすると、同人がその死亡時において被告に対し一時に請求し得べき損害金(消極的損害額――逸失利益)の額は、みぎ1における金六八二万一、八〇五円および同2における金一三七万八、一六九円の合計金八一九万九、九七四円であり、この損害賠償請求権は、同人の死亡によりその唯一の相続人である直系卑属の原告が相続によつてこれを取得したわけである。

しかるところ、原告は訴外亡中山光弘が本件事故に因り被むつた逸失利益の損害額としては金六一九万五、八六二円しか主張していない(これは主として給料等収入の中間利息控除について一括控除方式をとり、別表第二のような年別控除の方式――当裁判所は昭和三七年一二月一四日最高裁判決・集一六巻一二号二三六八頁の趣旨に従い後者の方式に拠つた――を採らなかつたこと等損害額算定方法の差異によるものと考えられるが)ので、右訴外光弘の死亡に因る消極的損害(逸失利益)の額は、みぎ金六一九万五、八六二円の限度においてこれを認むべきものである。

尤も本件のごとく損害の発生が遡つて法益侵害としての「身体傷害」ないし「生命侵害」の事実に帰する旨主張せられている場合には、請求の基礎をなす不法行為は一つ存するだけであり、因つて生ずる損害賠償請求権も一個であり、各種の損害費目が主張せられていても、それは「身体傷害」ないし「生命侵害」に因る損害の範囲及び内容を具体化するための、損害算定上の資料として主張せられているにすぎないものと解すべきであるから、民事訴訟法第一八六条の拘束も総額(消極的損害だけでなく積極的損害や慰謝料も包括した金額)の主張と認定との間において考えれば足り、その費目の一々の主張と認定との間で考慮する要はないとの説(例えば昭42・10・18東京地判、判例タイムズ二一一号二〇三頁参照)も存するが、当裁判所は、裁判所の自由な心証によつて定め得る慰謝料は別として、逸失利益の算定のごとく当該費目の主張と証拠によつて認定せらるべき額の主張とが分離せられず、したがつて証拠により厳密に額の認定が行われるべきであるものについては、当該主張と認定との間に右法条の適用があるものと考えるので、前記のごとく認定した次第である。

ところで、原告が右亡光弘の相続人として自動車損害賠償保障法による保険金三〇〇万円を受領し、これをみぎ逸失利益による損害額に充当したことは原告の主張自体から明らかであるから、結局右損害額は差引き金三一九万五、八六二円となるものである。

(乙)  財産上の積極的損害

本件事故直後原告は遺子(喪主)として右亡父中山光弘の葬儀を行い、これが費用として約二〇万円を要し、なお右金額は原告が年少で資産・収入皆無のため、祖父に当る訴外中山直(亡光弘の実父)において立替え支出したことが認められるところかかる葬儀は死者を葬る慣例の儀式に係り、かつ該事故死がなかつたならば、直ちに支出することを要しなかつた出費であることからみて、右事故に因る損害と解するのが相当である(昭和42・7・25大阪高判、判例タイムズ二一一号一五四頁参照)。

ところで、原告は右費用として金一五万円しか主張していないので、右金額の限度においてこれを認むべきものである。

(丙)  精神的損害

つぎに訴外中山光弘は、満四二才の働き盛りとして前途春秋に富む身で本件奇禍に遭いかけがえのない生命を喪い、愛妻と永決し、年少の原告を遺したものであるから、みぎ致命的な傷害を受け臨終に際しての精神的悲痛は至上のものであつたというべく、これに被告は資力的に余裕がない身とはいえ、右中山の葬儀に際し金五、〇〇〇円の香典を包んだほか、右光弘と同時に本件事故に因り頻死の重傷を負つた同人内縁の妻川崎笑子の入院費としてこれまでに一〇数万円を支払つておるだけであること等の事情を併せ考えるときは、右光弘の該精神的苦痛に対する慰謝料としては金一二〇万円をもつて相当とすべきものと思料する。

したがつて原告は、右光弘の死亡によつて同人の取得したみぎ慰謝料請求権を相続し(当裁判所は昭和四二年一一月一日付最高裁判所大法廷判決・集二一巻九号二二四九頁の趣旨に従い慰謝料請求権は損害の発生と同時に被害者がこれを取得し、その請求の意思表示がなくても、当人がこれを放棄したような事情のない限り、当然相続の対象となり、本件のごとく被害者が重傷によつて意識不明のまま受傷後短時間で死亡したような場合にも慰謝料請求権の発生ならび同相続を肯定し得るものと考える。)、該金額の請求債権を有するにいたつたものというべきである。

四、そうすると、被告は原告に対し、前記(甲)・(乙)・(丙)各費目の合計金額である金四五四万五、八六二円およびこれに対する本件訴状副本の被告に送達された日の翌日であることの記録によつて明白な昭和四三年一一月一〇日より支払済みまで民事法定利率年五分の割合による遅延損害金を支払うべき義務のあることが明らかである。

五、よつて原告の請求は右の限度で理由があるからこれを認容し、その余は失当として棄却し、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八九条第九二条本文を、仮執行ならびに同免脱の宣言について同法第一九六条第一、三、四項をそれぞれ適用のうえ、主文のとおり判決する。

(裁判官 石川晴雄)

別表第一 給料等・生活費・退職手当金明細

<省略>

別表第二

ホフマン式により中間利息を控除した給料等収入(ただし生活費を差引いたもの)の年別金額明細。

X=X1+X2……………Xn+……………X15

Xは死亡時に一時に請求し得べき給料等収入(ただし生活費を差引いたもの)についての全損害額

Xnは死亡時に一時に請求し得べき同上収入についての死亡後第n年目の損害額

そうすると,死亡後第n年目の損害額は,次式により求めることができる。

<省略>

よって,

X1  1年目(自昭43.7.1至〃44.3.31) 360,261円÷1.0375=347,240円

X2  2年目(自昭44.4.1至〃45.3.31) 507,865円÷1.1=461,691円

X3  3年目(自昭45.4.1至〃46.3.31) 530,170円÷1.15=461,017円

X4  4年目(自昭46.4.1至〃47.3.31) 555,430円÷1.2=462,858円

X5  5年目(自昭47.4.1至〃48.3.31) 580,595円÷1.25=464,476円

X6  年年目(自昭48.4.1至〃49.3.31) 605,759円÷1.3=465,936円

X7  7年目(自昭49.4.1至〃50.3.31) 628,064円÷1.35=465,233円

X8  8年目(自昭50.4.1至〃51.3.31) 643,746円÷1.4=459,819円

X9  9年目(自昭51.4.1至〃52.3.31) 661,140円÷1.45=455,959円

X10  10年目(自昭52.4.1至〃53.3.31) 675,629円÷1.5=450,419円

X11  11年目(自昭53.4.1至〃54.3.31) 690,403円÷1.55=445,421円

X12  12年目(自昭54.4.1至〃55.3.31) 715,949円÷1.6=447,468円

X13  13年目(自昭55.4.1至〃56.3.31) 741,304円÷1.65=449,275円

X14  14年目(自昭56.4.1至〃57.3.31) 764,743円÷1.7=449,849円

X15  15年目(自昭57.4.1至〃57.11.30) 552,964円÷1.0333=535,144円

∴ X=X1+X2+X3………………X15=6,821,805円

別表第三

ホフマン式により中間利息を控除した退職手当金額算出明細。

3,800,340円÷(1+14×0.05)=2,208,473円

(14は昭和43年7月1日から同57年11月30日までの満年数)

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